大暴れをする夢を見た。車のリアシートをぶちっとちぎりとってうおーっとブン投げて怒っていた。そのくらい妊婦の怒りは激しい。いつも怒っているわけではない。怒るべきできごとがあったとき,それがほんとうにささいなできごとで,妊婦ではないときの自分ならちょっとムッとする程度のものであったとしても,妊婦のわたしは怒り狂ってしまうのである。大暴れをして泣き喚いてこんにゃろ〜と叫ぶのである。


 妊婦の感情は通常の10倍程度に増幅されている。ゆれ幅がぐぐーんと広くなる。ストレスを検出しやすくするためなのかもしれない。これまでは見過ごされてきたようなレベルの些細なストレスであっても,妊婦は許さない。赤ちゃんのためにささっと検知し,ストレス源を排除しなくてはならない。


 夫そのたの家族は,ちょっとした言葉づかいであっても,それについて泣きながら抗議されたら,そしてそこに恐るべき妊婦の権力と破壊力がそなわっているとしたら,言うことを聞かざるを得ないだろう。触らぬ神にたたりなしとばかりに,その地雷ゾーンを慎重に避けるようになるだろう。家庭内の平和のためにも,妊婦の感情は日々増幅されている。きたるべき赤子の日々のためにも妊婦の感情は増幅されている。妊婦が涙と怒りによって掃き清めた安全な空間で赤ちゃんは育つ。そう,妊婦の感情はあくまでも自分と子どもを守るという自己中心的な防衛本能によって増幅されているのだ。……たぶん。