ネグレクトによる子どもへの身体的影響


BBC NEWS | Health | Neglect 'leaves a physical mark'

実の両親であっても、子どもは強いストレスを与えられた場合、ネグレクトされ続けた場合、後天的に脳に影響を受けることが、いろいろな研究によって示されつつあるようです。


簡単に翻訳してみますね。

愛情を示してくれる保護者がいないと、子どもは、社会的な愛着を形成するために重要な役割を果たすと考えられているホルモンの生成に直接的な影響を受けることが、アメリカの研究チームによって示された。


ネグレクトされた子どもにおいて、バソプレッシンとオキシトシンというふたつのホルモンが、長期にわたって低レベルを示すという研究結果がある。


その実験では、子どもを被験者として、1:実母、2:養母、3:見知らぬ女性のひざの上でパソコンを使ったゲームを行わせた。そのゲームは、2者の間でささやきあったり、くすぐりあったり、手をたたきあうなどの行動が要求されるゲームであった。


このような活動を行った場合、家族に育てられた子どもには、オキシトシン値の上昇が見られる。しかし孤児としてネグレクトされた子どもが、後に安定した環境で養父母に育てられた場合でも、オキシトシンの上昇は見られなかった。


また、孤児院で育てられた子どもたちにおいて、バソプレッシンというホルモン(親密な関係にある人物を認識するために必要なホルモン)はコントロールグループと比べてより低い値を示した。


別の研究では、実母の感情的な爆発によっても、子どもの唾液中のホルモンを調べてみると、ストレスを強く受けていることが示された。


つまり、精神的に見捨てられても実際に見捨てられても、「捨て子」として脳は影響を受けてしまうようです。親密な関係を作る能力や、誰かの存在によって慰められ、落ち着くという力が弱まってしまうんですね。


これはなんだか、ボーダーラインの理論に合致していますよね。分離固体化の過程で(生後5ヶ月ごろ〜3歳ごろの、ひとりで遊んだり探索活動する時期)母親がともに喜んでくれない。逆に、強くコントロールされたり、ヒステリックに怒られたり、悲しまれて禁止される。母親の思い通りにならない子どもは、精神的な「捨て子」となってしまう。親の愛情を失うことが怖くて、顔色をうかがうようになって、傷つきやすくなる。


この間に、脳内ではどのようなことが起こっているのかということが、ホルモンなどの研究から解明されれば、より効果的な親教育、乳幼児期の脳と心の傷つきの予防活動、そして後天的な影響に対する適切な治療が可能になるかもしれませんよね。


臨床をしていても、自分の経験を考えても、「ああ、脳に傷がついた」という感覚を感じることがあります。人は、あまりにひどい行為を別の人間から受けると、それは傷となって長期的に残ってしまうのです。そしてじくじくと痛み、障害を残すのです。その相手が、関係の深い相手であればあるほど、傷は大きく深く、癒えるのに時間がかかるのです。もちろん受け手の素因や認知傾向にもよるのですが。


保護者に対しても、精神的な虐待が、過剰なコントロールやヒステリックなやつあたりが、長期にわたって残る傷を脳に与える犯罪的行為であると、社会的常識としてもっとしっかり浸透すれば、今よりもそういう行為は減るのではないか、あるいは止める人が増えるのではないか、と願わずにはいられません。



【参考文献】

境界例 (こころの科学セレクション)

境界例 (こころの科学セレクション)