「妙齢女性」むけテキスト:愛と恋のちがい

夕暮れ



眠れぬ真珠

眠れぬ真珠


恋とは、あきらめたつもりでも、あきらめられないこと。自分の御しがたいわがままな気持ち。


愛とは、相手の未来にも、だめなところにも、恋をしてしまうこと。


そんなことを思わせてくれるテキストです。
そもそも、石田衣良という作家が私は好きです。素直に、大切に、あたたかく、日常の人間をみつめるまなざしがある作家です。びっくりするような物語でも、世界を変えるような大作でもないのです。でも、そこには出だしから結末に至るまで、人間の弱さにも醜さにも、やさしくやわらかい視点があるのです。慈しむように。きっとこの作家は人間が好きなんでしょうね。


この小説は、「ありふれた感じの、妙齢女性と年下青年の恋」かなーと思って軽い気持ちで読みました。確かに、そうでした。でも、そのありふれた感じがとてもとても丁寧なので、そのありふれた1日1日の美しさが胸に響きます。


そう、恋愛の美しさとは、やはりありふれたところにあるし、男の弱さと女の弱さが情けなくもぶつかり合うところにあるのです。弱いところでこそ、人は愛し合うのだと私は思います。美徳ではなく、外見でもなく、人格の素晴らしさでもなく、どうしようもなく弱くて情けないところに恋をしてしまうことこそが、おとなの恋愛なのではないでしょうか。