『ノーフォールト』医師による産婦人科医を救いたいという熱い思いの詰まった小説


ノーフォールト

ノーフォールト

現役の医師によるもの。といってもイマドキの若手医師小説家ではなくてベテランの先生みたい。
初めての小説ということで、確かに視点があちこちに飛んだり、いろんなひとの内面が書かれすぎていて、主人公の視点からずっと読めないのでちょっと疲れてしまう点はあるけれど、それでも熱い思いの詰まったよい本でした。そうですね、小説の形をとった世間に対する訴えというか願いなのでしょうね。


読んで感じたことは、やっぱり産婦人科は大変なんだなあ…ということ。
勤務の過酷さもありますが、「無事に生まれて当たり前。お産なんだから、母子ともに生きていて当たり前」という患者さんたちとそのご家族の思いのなかで、大学病院としてかなりの重症ケースに必死で向き合いつつ、日々の24時間のお産に取り組みつつ、薄給のなかでバイトをして、研究して教育していくというのはほんとうにハードですよね。この小説ではドクターがPTSDになっていましたが、実際に過労自殺されたり、うつ病を発症して自殺をするという方も多いようです。その一歩手前の方がたくさんいます。


私の友人知人も他の科ですが、大学病院にいったとたん死人になっています・・・。「生きた肉のかたまり」状態だそうです。思考していられないのかな。地方はいま医局に人がいないから、よりいっそう大変なようです。地方の公立病院はそのうちなくなっちゃうよと知人の内科の先生がいっていたのですが、この本を読むと「そりゃなくなるよね・・・」としみじみ思いました。


医師に過失がなくても賠償金が出るという「ノーフォールト」制度を導入したとしても、苛酷な労働環境は変わらないですよね。今の若いスタッフがたくさんそのような厳しい環境に進んでいくとは思いがたいですし、医療の進歩にしたがって高度な専門知識と技術がどんどん要求されてくるし、これから先は医師になるのも患者になるのも不安ですね…。