高齢者になるのが恐ろしくなる医学ミステリー?ミステリーなのか?論文?ルポ?


破裂

破裂


 小説としての評価はいろいろ分かれるところですよね。でも、私がこれを読んで感じたのは、「高齢者の老化と長寿への不安と希死念慮」のリアルさです。


 特に高齢者の自殺率が高いのは周知のところです。安楽死も認められていないのにどんどん治療して延命して長寿にしていくというのは恐ろしいことなんだなと感じさせられました。逃げ道がないというか、あまりにも一方向に延長され過ぎて行き場がなくなるのですね。そして死の恐怖と老化と病苦によって「ゆっくりと失っていくこと」は、うつ状態希死念慮を引き起こします。しかしそれを現在の高齢者医療では十分にケアできていません。自分が高齢者になったとき・・・ブルブルブル・・・と悪寒が走る、そういう力を持ったテーマがこの本にはこもっています。


 このようなテーマが、小説のようにミステリーのように、論文のように、ルポのように、じゃんじゃん語られる様は圧巻です。ジェットコースターです。「こんなに面白い医学ルポは初めてだわー」って感じの小説です。読んだ後も・・・何を読んだのかよくわからない。確かに「白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫)」には及びませんが、様々なテーマが万華鏡のようにつめられています。この中の一部が、これから洗練された形でこの作者の小説としてこれから世に出てくるのではないでしょうか。


 その一部が『無痛』ですが、これは上記の小説でいえばこの中のふたりだけに焦点を当てたような感じで、すっきりとしています。あー、でももっと殺人クローズアップです。『チーム・バチスタの栄光』の作者よりも殺意や描写の点でグロテスク系統ですが、医学における扱いづらいテーマを小説としてくっきりさせるという点で、やはり力のある「作家兼医師」だなと思います。今後の作品にさらに期待したいです。