最近読んでおもしろかった脳の本


なぜ女は昇進を拒むのか――進化心理学が解く性差のパラドクス

なぜ女は昇進を拒むのか――進化心理学が解く性差のパラドクス

 進化心理学,遺伝子,さまざまな研究データを通じて,男性と女性がどのように違うのか,その違いからどのような現代のジェンダーギャップが生まれているのかをまっすぐに考察した本です。おもしろい! これまでの表面的な「男と女の脳は違う」という科学書とは違います。違う部分がある,だからこうなってこうなっているのではないか,その違いの積み重ねによって,こうなっているのではないかと,深く多面的に論じられています。その考察の過程がスリリングであり,チャレンジングであり,エキサイティングです! おすすめ!
 発達障害についての考察も非常におもしろいです。例えば,ADHD自閉症も男子の方が多い。でも飛びぬけて優れた業績を残すのも男性の方が多い。それはなぜか。小さな頃から大学生くらいまで,女の子の方が勉強熱心で,まじめで,集中力もあるのに,仕事において力を発揮する機会が少ないのはなぜか。能力差だけではない,何かの差を脳がつくっているのではないか。ううむ。すごくおもしろい。そしていろいろと納得してしまう。


確かに自分も「がんばればできる!」と思っても,あえてやろうとしないことがある。たくさんのすばらしい論文を書くとか,海外の大学の博士課程にいくとか,給料のよい常勤職につくとか,開業するとか,いっぱい一般向けのカウンセリングセミナーするとか。
 女性というのは,「自分の幸せ」を常に考えて,それと昇進が折り合わないときは,昇進や仕事での成功を捨てる傾向があるのかもしれない。そしてそれは男女の能力差ではなく,優先順位や適性の違いなのかもしれない。
 「がんばらない」ことに罪悪感があったけれど,そんな自分を許せて,いろいろと腑に落ちる。がんばらない自分に罪悪感を持つ,あるいはがんばりすぎて自分を見失いがちの女性のためのおすすめの一冊です!



脳は奇跡を起こす

脳は奇跡を起こす

脳は失われた機能を取り戻すことができる。その可塑性について精神科医である著者がさまざまな事例や研究結果から論じている本です。平衡感覚を失った女性が,訓練でだんだんとその感覚を取り戻していく過程は感動的です。脳の,人間の持っている力のすごさを感じます。
 カウンセリングもある意味では「脳を変える」もの。心の機能の訓練をして,セラピストとクライエントが力を合わせて脳をつくりかえていると言えます。不安になりやすい,人を信じられない,人を愛せない…そういった失われた心の機能も絶対に取り返せるんだと希望を与えてくれる一冊。



ブレイン・ルール [DVD付き]

ブレイン・ルール [DVD付き]

 イマイチ信用しがたい表紙のわりには,しっかりとエビデンスに基づいたよい本です。能力を100%引き出すためにはどうするかを科学的に解説しています。ランニングマシーンを使いながらの重役会議とか! いいですよね。想像すると笑えますね。でもよい会社になりそうです。進化の過程において人間は1日20キロ歩きながら脳を使ってきた。1日8時間机に座っていたら能が機能するわけないだろ! というあたりにはなるほど〜と納得させられます。これもおすすめ!

 

徹底図解 脳のしくみ―脳の解剖から心のしくみまで

徹底図解 脳のしくみ―脳の解剖から心のしくみまで

 心理学を講義するとき,ちょっと脳にも触れたいなというとき役立つ一冊。いろいろな心的機能と脳のつながりをカラー図解で示してくれます。




My Stroke of Insight: A Brain Scientist's Personal Journey

My Stroke of Insight: A Brain Scientist's Personal Journey

 おもしろそうだ! と思っていたら,和訳されて出版されました。脳神経学者が脳卒中になったら? その回復過程を克明に記した一冊。私はこれを片頭痛治療のために受診した脳神経内科の待合室で読んでいます。おもしろさ倍増!!