人間の心の深さと怖さと現実

柔らかな頬 上 (文春文庫)

柔らかな頬 上 (文春文庫)


一気に読んでしまった!
電車の中で。そして旅行先でも。
帰りの電車まで下巻がもたなかった。


けれど、「おもしろかった?」と聞かれたら、「うーん・・・」と低くうなるしかない。ラストを読み終えた後は、となりにいた人に「ひどいよーひどいよーうわーん」と訴えてしまった。


解説にも書かれていたが、確かにこの小説にはカタルシスがない。「あーよかった」というすっきり感がない。全然ない!けれど・・・それこそが人間の心のありようではないか?となりにいた人は「そんなのひどいね。読まなきゃよかったね。仕事じゃないのに苦しくなるなんて」と言ってくれた。それで、ふと気づいた。つまりこの本は、心理士が苦しくなるくらいリアルな感じがするんだ。


普段のカウンセリングと同じように、リアルな人間が、解決もカタルシスもない現実を、もがきながら進み続けていく。どこかにすっきりとした答えや、明快な新しい道が見えてくるのではないかと期待しながら、ずーっとずーっと山道を迷いながら行く。


全ての人がそうやって歩いている。醜いときもある。恐ろしい心を持つときもある。慈愛に満ち溢れるときもある。功名心と自負心と劣等感と優越感のために自分と他人を傷つけることもある。誰かを憎むこともある。変わることもある。変わらないこともある。全ての人の心の中に、この本の登場人物の全てが住んでいる。


だから、深くて怖くてリアルな本でした・・・。
でも読んでよかったと思います。