子どもの心の緊急事態:その2
りょうちゃん(甥 5歳)がテレビゲーム(プレステ)を上手にできるようになりたいとママに訴えました。
ママは言います。「そんなのうまくならなくってもいいんだよ。あれはおとなの人が自分で買って楽しむものなんだよ。」
りょうちゃんは泣き出しました。何か悲しい気持ちをいろいろ言いたかったようですが、うまく言葉にできません。部屋に行ってさらにめそめそ泣きます。
ママはそっと耳を澄まします。
「・・・のバカ・・・のバカ・・・」
まあ!バカって言っちゃいけないって言っているのに、なんでしょう!!さらに耳を澄まします。
「ぼくのバカ・・・ぼくのバカ・・・ぼくのバカ・・・」
ビーッビーッビーッ 心の緊急事態発生!!!
カウンセラーの出番ではありません。ママの出番です!!
「どうしたの?」
「ぼくバカだもん・・・言いたいことわからんもん・・・なんでかわからんもん・・・頭悪いもん・・・」
(こんなこと言ったの初めてです!!ますます緊急事態!!)
「ママの大事なりょうちゃんをバカって言っちゃダメよ」
「・・・」
「わからなくってもいいんだよ。
わからないって言えるのは大事なことだし、それを言えるりょうちゃんはとってもえらいよ。
それにね、わからないってことをわかっているって、すごいことなんだよ!」
「??」
「わからないってことがわからないと、わからないもんね」
「????」
「りょうちゃんは、自分がわからないんだってことを知っているから、えらくってすごいんだよ。」
「・・・う?・・・」
「わからないってことがわかったら、わかれるようになるってことだよ。それに、そんなふうにわからないって言えるりょうちゃんのことを、ママは誇りに思うよ。」
「・・・うん・・・」
「それにね、大きくなってもわからないことはいっぱいあるんだよ。
でも、大きくなるとね、もっと“わからん”って言えなくなっちゃうんだよ。
おとなになると、わかっているふりをする人もいっぱいいるけど、りょうちゃんがそうやって“わからない”って泣いていることはすごく大事なことなんだよ。
だからりょうちゃんはすっごくえらいんだよ。
これから大きくなっても、わからないことはわからないって言おうね。
そう言えることがとっても大事だよ。
そうやって考えていくことがとっても大事だし、そういうふうにできるよ。
りょうちゃんは、本当はすっごく頭いいんだよ。
ママびっくりしたよ。」
(黙って聞いている。泣き止んでいる。)
「さあ、ママの作ったおいしいおうどん、りょうちゃんだけに先に食べさせてあげるよ。
だって、ママの一番大事なりょうちゃんだもん」
りょうちゃんはにっこりして、ごきげんでおうどんを食べました。
“自分はバカ”だと思う・・・とても悲しいことです。我が家ではそういう言葉は使わないようにしているのに、どこから感じてしまったのか、とにかく心の緊急事態でした。
ママは“りょうちゃんがいかにバカではないか”となんとか説得しようと必死になってがんばりました。そして、いかにママがりょうちゃんを好きで大事に思っているかを伝えることによって、自分を大切に思えるようになってほしいと願いました。
去年一昨年まで、お腹すいた、お菓子食べたいということで泣いていました。それが成長し、自分の感じたことで傷ついたり悲しんだりするようになります。そしてそのことをうまく言えないので、その時期にいかに「親が親のままでいられるか、親としていてあげられるか」が何より大切なのだとママは言います。
全身で感じ取ろうとすれば、子どもがどこまで自分で努力しようとしているかをわかってあげられるし、何を言葉にできないままに耐えているかを理解しようとしてあげられるのです。うまくくみ取って、親の気持ちを伝えてあげられれば、親の心もあったかくなるそうです。そしてきっと子どもも。
一度受け取ったものはしっかりと子どもの中に入っていくのだそうです。手紙なんかで返してくれます。少しずつそれでもしっかりと目の前で心が成長していく・・・その様を見つめられるのが親の仕事の醍醐味であり、幸せなんですね。
しかし、このようにタイミングをしっかりと外さずに、心の緊急事態をキャッチして働きかけるのは難しいと思います。共働きの夫婦などは至難の技でしょう・・・。
大切なタイミングをのがさずに、そうやって大事な部分をお互いにつくりあっていけば、きっと思春期の揺らぎが来ても、第2の分離固体化の時期が来ても、どっしりと信頼しあっていられる親子関係でいられるのでしょう。