痛みを乗り越えるための冒険

 痛みを乗り越えるためには、冒険が必要である。

 
 「悲しみ」と「怒り」と「恐れ」と「寂しさ」の地下迷宮を探索しなければならない。地下奥深く、真っ暗で明かりもろくにない。数多くのモンスターと戦う。激しい痛みが伴う。迷宮の奥で、自分の心に巣食う影と戦い、小さな自分を救出するのだ。


 「悲しみ」の地下迷宮には、昔の悲しみを再現して見せるモンスターがいる。傷口を抉り出し、血を流させる。あなたは、血まみれになり、ぼろぼろになるだろう。古傷からも血があふれ、痛みのあまり先へ進めなくなるだろう。


 「怒り」の地下迷宮には、目のないモンスターがいる。炎を噴出し、相手も見ないまま暴れる。近づく相手をすべて食いつくしてしまう。あなたは怒りに捕われ食べつくされるかもしれない。あるいはあなた自身が盲目のモンスターとなって、地下迷宮を永遠に彷徨うかもしれない。


 「恐れ」の地下迷宮には、あなたからすべてを奪い去ろうとするモンスターがいる。あなたの大切なものがひとつひとつ失われる。過去からも、現在からも、そして未来からも、容赦なく奪う。武器を奪い、寝床を奪い、宝物を奪い、仲間を奪い、力を奪うだろう。苦しさのあまり、うずくまってそこからもう一歩も動けなくなるだろう。


 「寂しさ」の地下迷宮は最も手ごわい。あなたを寂しさで動かなくさせてしまう。幻想を与え、偽の出口を見せつけ、ダンジョンから逃避させようとする。この旅の意味を見失わせるだろう。真の出口を暗闇に隠し、快適な避難所を見せつけるだろう。


 あなたはその地下迷宮を何度も何度も通ったことがある。途中で傷つき倒れたかもしれない。偽の出口から逃げ出してしまったかもしれない。モンスターに捕われて、自分もまたモンスターになりかけているのかもしれない。


 それでも、何度もチャンスはやってくる。激しい痛みとともにあなたはスタート地点に連れ戻される。さあ、もう一度やり直してごらん。今後はきっと最後まで行ける。小さなあなたを救出しながら、この地下迷宮を抜けて、旅の終わりの場所まで行ける。そこになにがあるのか、きっとあなたは知っているはずなんだよ。


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 人は自分の迷宮しか歩くことはできない。他人の迷宮を代わりに歩くこともできない。助け出すこともできない。一緒に歩くこともできない。ただ、平行して存在する迷宮の中で、それぞれが自分の冒険を歩く。


 魔法使いも、あなたを愛する人も、心の中の灯りとしてのみ存在するのだ。あなたが前に進み続けるならば、見えない力があなたを守るだろう。内なる力があなたを導くだろう。自分の一人の力で乗り越えなくてはならない。