きいろいゾウ:ちょっと普通でない感じのする人たちのありふれた普通の日常の幸せ


きいろいゾウ

きいろいゾウ


主人公の夫婦は、“ちょっと普通でない人”と言えるのかもしれない。でも、そんなことをいえば誰だってそうだ。この物語は、そんな人々のありふれた普通の日常の幸せがこめられている。


物語は、妻の「必要なもの。」から始まり、夫の「必要なもの。」で終わる。その中には
「・朝食のトマトの岩塩
 ・そば殻の枕
 ・たくさんのバスタオル
 ・カエルの鳴き声(大合唱に限る)
 ・欠け始めた月 
(抜粋)」
なんていう素敵なものが並べられていて、あーそうそう、それっていいよね、と思っているうちに、たんたんと始まる物語の一員になってしまう。


 コーヒーの匂い、あの日の気持ち。それを伝えたいのに、うまくいかない。
「あんな、そういう恥ずかしいことも、ムコさんが結婚しようって、コーヒー豆をごりごり削る音で、ああすっかり収まったなぁと思ってん。」
「それって、あるべき場所ってこと?」
 私が大地君に「言ってあげてる。」のか、大地君が「聞いてくれてる。」のか、わからなくなってきた。でも大地君の声は、大好きな虫の声そっくりだから、私はそのまま話し続けた。
「うん、ううん、わからん。でも、すごいこと言うたらな、そういう恥ずかしいこともな、ぜんぶ、今この場所、コーヒー豆とムコさんの声に、向かってたんやって思ってん。ああー、やっと着いたーゆうか、な。」

           −西加奈子 『きいろいゾウ小学館 P157−


不器用で、“ちょっと普通でない人”たちの“普通さ”が、やさしく綴られている様にふれるのは、満月の光にたっぷりと染まるゾウ(空を飛ぶゾウ)を見るときみたいな気持ちになる。


いいね。よい本です。