心理臨床の基礎論1−相談を求める人に出会ったとき考えるべきこと:「“アダルトチルドレン”の人」はいない


 心理療法を行っていくときに、臨床心理学を学んだものは、その知識を「ひとつの道具」とする。目の前の人にとことん関心を持ち、コミュニケーションの知識と精神医学的知識と心理療法の知識とカウンセリング技術と関係性を知る視点を「ひとつの道具」として利用して、目の前のたったひとりの人を、どのようにすればいちばん本人のためになって、いちばん本人が傷つくことなく効果的に援助できるかを考える。


 だから、「“アダルトチルドレン”っぽい人」も「“片付けられない症候群”な人」も、「アスペルガー」も「ADHD」も、「不安障害の人」も「境界例の人」もいない。


 目の前にいる世界でただひとりの人に、ある心理学的概念や精神医学的概念や診断基準が適用されることでそのひとに利益があると心理療法家として判断するならば、その概念を一部応用することは可能である。例えば診断名もそのひとつである。「不安障害にあてはまる症状を現在呈しながら懸命に学校に通う人」はいるかもしれないが、「不安障害の人」はいないのである。

 
 例えば、“アダルトチルドレン”ととらえると分かりやすいように思える人がいたとする。このような一般に知られている心理学的概念は「わかったつもりになる」危険性をはらんでいる。「あー、アダルトチルドレンだね」と受け止めてしまうと、そこから先、その人のことが見えなくなる危険性がある。
 

 ひとりのひとを援助したいと願うとき、臨床心理学の概念を応用したいのであれば、以下のようなところを見るのが望ましいのではないだろうか。


1. その人と自分の関係性はどのようなものなのか?なぜ、いまその人は自分に相談しているのか。自分はその相談に対して「どうしてあげたい」と感じたのか。それはなぜか。


2. その人の今現在の気分と人的・社会的・経済的環境はどのようなものか?それがいまここにいるその人にどのような影響を及ぼしているか?


3. その人の今現在の精神症状はどのようなものか?どのような治療・援助が必要であるのか?身体的疾患の検査は必要ではないか?精神疾患があるようであれば、自傷他害の危険性はないか、緊急の治療を要するひとではないか?入院など刺激の少ない環境での静養を必要としている人ではないか?薬物療法が効果的である状態か?そうであれば、どこに紹介するのが本人にとってよいか?


4. その人は今どのくらいカウンセリングを必要としているのか?自分とのカウンセリングが本当にその人にとって利益をもたらすのか?どこか別の相談機関に紹介する方が本人にとって有益ではないか?


5. 自我強度と防衛のレベルはどのようなものか?どのくらいの時間をかけて自分と信頼関係を築いていくことができそうか?自己開示のレベルはどのくらいまでがよさそうか?どのあたりの話が苦しそうか?苦しい部分の話になったときに、どうやって乗り越えていけそうか。あるいは不安定になったとき、どのような状態になることが予想されるか?


6. 本人のカウンセリングの真のニーズは何か?本人の目標は?自己の成長の方向性は?本人はどのようなところへ向かっていきたいと考えており、そのためにカウンセリングをどのように利用したいと考えているのか?セラピストにどのようなやり方で手伝ってほしいと思っているか?本人にとって「治る」とはどのような状態になることか?


7. 本人の過去の経験や家族歴、親子関係や「トラウマ」、二者関係や三者関係の持ち方などについて考えたり話したりすることは、どのように本人のカウンセリングのニーズにとって必要か?必要だとするならば、どのように取り扱うことが効果的か?


8. 1〜7までを考慮した上で、本人のカウンセリングを本人とともに進めていくにあたって、どのような治療技法や心理学的概念、病理学が本人に利益をもたらしそうか?それをどのように利用することが、本人にとって効果的であるか?またその副作用はどうか?


9. カウンセリングがすすむごとに、1〜8の見直しができているか?本人のニーズにあっているか?効果的に援助できているか?どのように終結しそうか?そのためにさらに必要なことは何か?その副作用は何か?



 基礎としての姿勢において必要なのは、心理臨床の基礎ですね。何度も紹介しましたので、そちらを参考にしてください。
 →カウンセリングの基本中の基本 - Psychotherapist Tetoの日記あるいはふっくらネコてとの日記
 その上で、7番や8番でクライエントに役立つために無限のツールをそろえたいとすると、基礎心理学はすべての基礎なので当然ですが、さらに臨床心理的概念や病理学、治療技法などの学習と習得を積み重ねる必要があります。


 例えば歯周病を治したいときに、『すぐ治る歯周病の最新情報:姿勢のゆがみが〜〜』という本を読むのももしかしたら効果的かもしれませんが、やはり歯と歯肉と歯槽骨などなどその疾患にまつわる全組織についての解剖学、生理学、薬理学、その人の全身の状態についての医学的知識と、生活環境・生活習慣についての理解を取り入れながら、二者間の信頼関係をベースに、基礎から最新論文で紹介された治療学も、自分にあった形で応用してもらって治療することが大切ですよね。

 
 もしも、心理学を学んでいる方が知人の相談を受けたとき、7番や8番の知識も役立つかもしれませんが、まずは「自分のできる範囲で、丁寧に聞く。何がどのようにその人を苦しませ、そのような気持ちにさせているのかということに関心を持って、その人を傷つけないように聞く。苦労をねぎらい、がんばりをほめ、カウンセリングや薬物療法が必要であると思われたならば適切なところを紹介する」ということができれば、素晴らしいと思います。
 

 そしてまた、「これ以上のことは今の自分にはできない」ということを知り、その限界を守るということが何よりも大切です。自分のためにも、相手のためにも。


 これらをふまえた上で、ご紹介★


自己愛家族―アダルトチャイルドを生むシステム

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大学院のテキストで使いました。名著です!


自己愛障害の臨床―見捨てられと自己疎外

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何度か紹介していますが、「自分を大切にする」という健全な自己愛が障害されることについて、よく描かれています。オススメです!


精神病理と心理療法―症例の統合的理解とアプローチ

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これも何度か紹介していますが、個人心理学の視点から、各疾患について生化学的理論や各治療論、臨床象、症例が説明されており、血の通った理解をおしすすめてくれる名著です!研究もふんだんに紹介されており、大学院のときむさぼり読んでいました。


今回は、いいリクエストをいただいて、もがーっ と書けました!ありがとう。
またいろいろ質問やコメントしてくださいね★


刺激、待ってマス!むきゃ♪