性的な外傷体験:小中学生女子の心と日常の隣に潜む、怖くて恐ろしくて汚いもの


あなたの呼吸が止まるまで

あなたの呼吸が止まるまで

最後まで読むと、「え、実話かな?」とどきりとさせられる。実話なのかもしれないなあ。だとしたら、ちゃんと復讐できて、よかったなあ。


小中学生の女子の日常には、こういう怖くて嫌なことが起こる。
心と体が成熟し、自分で「そういうことをしたい」と恥らいつつも喜びをともなって、自分で相手を選べるようになる前に、こういうことがあってはならないのに、こういうことはとてもよく起こる。


思春期になっていく女の子たちが漠然と感じる、親への怒りと自己嫌悪と「誰からも愛されないんじゃないか」という孤独感と、そして性に対する未開発ながらも大切な好奇心を、狙う成人男性たちが確かにいる。日常のエアポケットのようなところで、彼女たちを守る大人の力がほんの少しだけ弱まった隙に、彼女たちの寂しさと好奇心を巧みに利用して、近づく。性的犯罪者というわけでもなく、普通の、どこにでもいる弱い大人が、ものすごく汚い言い訳をしながら、近づく。


彼女たちは自分を責め、自分を汚いと感じ、何かかけがえのないものを失う。もう取り返せないものを。親に決して言えないことをかかえて生きながら、消えない後悔と自己嫌悪と憎悪と怒りをも、持ち続けなくてはならない。


願わくば、すべての少女たちが、16歳や20歳を過ぎて、身も心も焦がす恋に落ちて、その相手に愛され、ほんとうに大切にされて、そしてある日、喜びと愛に満たされながら、「女の子に生まれてよかったな」と幸せに思うことができますように。



「体の声に耳を傾けて、じっくり思考して、体にも心にも気持ちが良くて正しいと思えるものを選んで。いったん選んだら堂々として、それを信じてあげるんだ。そうしていれば大丈夫だから。朔ならきっとできるよ」


島本理生『あなたの呼吸が止まるまで』新潮社 pp177-178