患者さん1人1人の物語を預かる:『閉鎖病棟』


閉鎖病棟 (新潮文庫)

閉鎖病棟 (新潮文庫)

 患者さんにすすめられ、実は読んでいなかったことに気づいていまさら読み始めました。
 山本周五郎賞受賞なんですね。
 最初の数10ページ読んでところでは、1人1人の患者さんのエピソードが「物語」として語られます。その部分だけでもぐいぐいと引き込まれます。何人か分の物語が紹介されるのですが、1人分だけで1冊の本が書けるだろうしできればそれを読みたいと思わせる、厚みのある物語です。それを読んでいて、精神科病棟での勤務のことを思い出しました。
 

 入院患者さんの病歴をまとめなおすという作業をやっていたのですが、その方々の「歴史」に心を動かされっぱなしでした。引き受け手がない社会的入院の方、よい薬のない時代に精神病を発症され、病理による苦しみゆえに事件を起こし退院できない方は何十年も入院されています。そういった環境の方の「病歴」とはまさにその方の1つの「物語」なのです。もちろん外来の方であっても、病院に来ない方であっても、私たちすべてが同様に個々の物語を持っているわけですが、精神科の「病歴」のように、1年から数十年の長いスパンで物語られ、他者によってしっかりと記録されることは少ないのではないでしょうか。


 そうおもえば私たち心理臨床家はいろんな方の物語をお預かりしているんですね…。カウンセラーという器に盛られた1つの物語を。大切にしないといけないなあと改めて思います。