『サウスポイント』心の中の変なところをすごくうまく言葉にするよしもとばなな
- 作者: よしもとばなな
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/04
- メディア: 単行本
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心の中のすごく変なところをすごく率直にうまく言葉にしていて、それがこの作家の持ち味なんだけれど、小説というよりはカウンセリングに来ているクライエントの日記を盗み読んでいるような気分になってしまう。なにかを物語にしているというよりは、感じたことがそのまんま言葉にされている。小説として読者のためにいじられていない。そう感じる。そのよしあしは別として、他にはあまりない本だよなあと思う。でも別バージョンでは金原ひとみもこのタイプではないかな。こちらはもうちょっとチクチクさせているけれど。田口ランディも入るかも。こちらはもうちょっと物語の形をただよわせてはいるけれど。
たとえば、
たわいなくてバカみたいだけれど、私は本気だった。このままでいい、時間が過ぎたら困る、だってきっと全てが変わってしまうから、そういうふうに私は思ったのだ。
でももしも私が神様だったら、あの時虚勢をはって、いろいろなことをわかったふりをするので精一杯だったあの女の子にこういうだろう。
「人生はうんとはじめのころに幸福のほとんどを知るものなの。人によってちがうけれど、至福の鋳型はそのときに作られる。そしてその後はほとんどずっとそれを取り戻すための戦いなの。あなたの場合は、珠彦くんとの時間がそれを、憧れの全てを、象徴していたんだね。」
というところ。
小説としてはあまりに説明が足りないというか、言葉が足りないというか、「この人の言葉」過ぎていて、本当にカウンセリングをしているときのクライエントの言葉みたいに“そのまんま”だ。心のまんまのことばで、他者に理解されるために表現を変えていない。
こちらの部分は個人的に、「ああ〜あの人はこういう感じなのか〜」と納得する気持ちも。
その現実に押されて、その頃まではかろうじておつきあいがあった珠彦くんがいっそう遠くなった。
彼がハワイ島に移住したことでもうかなり疎遠になっていたのだが、気持ちがきりきりしていた私は「こんなたいへんなときにそばにいない人なんてもういらない」と本気で思った。いつも光の中にいるであろう彼を憎いとさえ思った。連絡が来ても返事をしなかったし、ハワイ島に遊びに行くという計画もうやむやにして、自分から断ち切っていってしまった。
珠彦くんを心にやさしく抱いていたら、とても乗り切れないようなきつい時期だったのだ。
でも他の作家だったら、こういうのを5行で表現したりはしないだろうなあ。ぎゅぎゅっと「気持ちの言葉」で凝縮して過去を語る感じが、カウンセリングのなかのクライエントの言葉みたいなのかもしれないな〜。
なんだかハワイ島に行きたくなってきました・・・。サウスポイントに行ってみたいな〜。きれいなんだろうな〜。