『神様のカルテ』すっきりさわやか後味


神様のカルテ

神様のカルテ

病の人にとって,もっとも辛いことは孤独であることです。

p181 夏川草介 『神様のカルテ』 小学館

 第10回小学館文庫小説賞を受賞した本です。著者は長野県の地域医療に従事するお医者さんのようです。


 夏目漱石を愛する,ちょっと変わり者のドクターが,友人と細君との生活を愛しみながら,同時に患者さんたちとのふれあいを愛しむ,そんな物語です。


 内容はもっともっと長く深く篤くなってくれたらいいな〜と思いますが(ぜひぜひ分厚い続編を書いてほしいです!),文体も登場人物もさわやかで快く,後味すっきりほのぼのする良い小説です。


 治療に悩むものにとっても,病に苦しむ患者さんにとっても,「病が治らなくとも,孤独が癒されればよい。たった一人で病と闘うのではなく,一緒に闘ってくれる人がいてくれれば,それで良い」というメッセージは古く,かつ新しいものです。私も,なかなか治らない,まるで治りたくないかのように見えるクライエントを前にして,いったい何ができるのかと途方にくれるときがあります。自分の無力さにがっくりしてしまうときがあります。でも,この物語のように,病と対峙する患者さんの孤独に寄り添うことはできるのかもしれない。そう思いました。それでいいのだ,とも思いました。


 生きることはそう悪いことではない,医療もまたそう悪いものではないと,医療者にとっても患者にとっても,勇気を与えてくれる素敵な小説です。