ワープするいきものとその心の発達の支援



近くで小学校の学習発表会がありました。
みそこんにゃくやみたらしだんご、
小学生たちのかわいい笑い声や笛の音、
そういうのを見たくて、妹と甥っ子(りょうちゃん、5歳)とでかけていきました。


すると、駐車場から降りて、校庭から小学校を見上げたとたん、りょうちゃんの足がぴったり止まりました。しゃがみこんで、草をむしります。
「どうしたの」と聞くと、
「ぼく行きたくない・・・」とつぶやきます。
車の中で眠くなったのかな?お腹がすいたのかな?朝は楽しみにしていたのにどうしてだろう?


横にしゃがんでゆっくり話を聞いてみると、どうも以前小学生に怖い声で嫌なことを言われていじめられたことを思い出してしまったようです。
これは私も妹も初めて聞きました。
「だから怖いもん。また嫌なこというもん・・・」とぐずぐずっとした声になって下を向いています。違う小学校だよとか、ママとなおちゃんがついているから大丈夫だよとかいろいろ説得してみますが、どうしても怖くて足が前に進まないようです。


これはもう、本格的な心の緊急事態です!


そう、臨床心理士ではなく、ママの出番です!


なおちゃん(臨床心理士)は、黒子になって、
「じゃあ、なおちゃんは、先生たちに挨拶して、おだんごとかお菓子を買ってくるから待っててね」と空腹を緊張を癒すために、ふたりの時間をつくるために、“すぐに自分が行かなくてもいい”と安心させるためにでかけます。


さみしかったけど、ひとりであのくるくるっとなっているくじをまわして、みそこんにゃくをもらいました。(1回はずれ1回当たり)
あつあつのみたらしだんごを買って、お菓子(ラムネ、うまい棒、黄色い電気ねずみのグミ、マヨネーズソース味のベビースター)をたくさんゲットして、戻ります。


その頃、ママとりょうちゃんはこんなお話をしていました。


「おまえ誰よって、お兄ちゃん怖い声で言った・・・。いじわるしたもん。ぼくかなしかったから、言ったらおにいちゃんもかなしくなるから、何にも言えんかったもん・・・。だから、怖いもん・・・。」


「お兄ちゃんにそんなこといわれて怖かったね。嫌だったね。


本当に強い人は、いじわるを言ったり嫌なことは言わないんだよ。
いろんな人がいて、嫌なことを言ってくる人がいるね。
寂しいのかもしれないし、誰かにいじわるされているのかもしれない。
いろんな人がいるんだってことをわかってあげられるこどもになろうね。


それにね、本当に強かったら、そんな嫌なことを人に言わないよね。
自分のひとことで相手がどう思うのかを考えられるのが、本当に強い人なんだよ。


りょうちゃんは、ちゃんと、それを聞いてかなしく思って、
相手が同じようにかなしくなると思って、その子に嫌なこと言わなかったんだよね。


りょうちゃんみたいなことは誰にでもできることじゃないよ。
りょうちゃんは強い子になったんだね。
ママは、りょうちゃんのママでよかったなぁ。誇りに思うよ。」


そして、ぎゅうっとだっこしていました。


そこへなおちゃんがもどってきて、3人で校庭でピクニックをしました。みそこんにゃくを食べ、みたらしだんごを食べ、ラムネを食べ、黄色い電気ねずみグミを食べ、うまい棒を食べ(「ぼくこの赤いヤツ大好きなん・・・」)ました。ちょっと元気になりました。


りょうちゃんは、やっぱり中には入れなかったけれど、玄関の近くまで行って、手を洗ったり、ちょっと学校の中をのぞいたりできました。そのあと、みんなで校庭のジャングルジムとブランコで少し遊びました。その頃にはすっかり笑顔になっていました。3人で近くの図書館によって、それぞれが大好きな本を見つけて帰りました。



子どもが大きくなるとき、こんなふうになんども心の緊急事態がやってきます。大波小波があります。そんなとき、子ども自身も周りの大人もせいいっぱい逃げずにがんばります。正解はありません。見つかりません。子どもはひとりひとり違うからです。文脈もいつも同じではないからです。


ただひたすら、向き合うこと。あるいは抱きしめること。
心の成長のサポートは難しく、答えのないことがもどかしく、それでも心の緊急事態には、それに気づいて絶対に手を抜かずにがんばりきること。


それができれば、あとはそんなママを「がんばったね」ってねぎらってあげることだけしか、臨床心理士の出番はないのだろうなあと思います。