カウンセラーが落ち込んだときの四苦八苦
カウンセラーも落ち込むことがあります。
プライベートなことで、あるいは仕事のことで、仕事周辺のことで、とてつもなく落ち込むことがあります。普通の人間です。
けれど、仕事の道具のかなりの部分が自分自身であるという点において、その事象の困難さが出現します。自分自身の考え、感じ方、表情、声のトーンや強さや早さや高低、言葉の選び方をコントロールする必要があります。高度な演技者に似た自己統制力と知識・理論・経験、そして目の前のクライエントの今ここでの気持ちや言葉の受け取りが、全身全霊をかけた精密さを理想として、統合されなくてはなりません。
けれど、道具はほんとうにつまらない小さな普通の人間です。
プロであろうとすることは難しく、自分自身の感情の揺れをどうやっておさめればいいのか悪戦苦闘します。それは嵐の夜に船の上で行う外科手術のようなものです。海図を読み、天候を読み、舵を操り、凪いだ海へ向かう熟練の船乗りが必要です。そして、正確でありながらハプニングに対応できる凄腕の外科医が必要です。
この嵐の夜にこの船乗りと外科医が取るべき道はいくつかあります。
- 嵐がひどすぎるので手術を取りやめる。患者の命を失う危険性がある。
- 手術を取りやめることが、嵐の中で手術をすることよりも患者を損なう可能性がある場合はやはり手術を行う。
- 嵐が多少おさまるときを見計らって行う。
- 船が凪いだ海に出るのを待って行う。
- 船乗りの腕によって嵐の海の中も船を完全にコントロールし、ベタ凪のような状態で行うことを可能にする。
- 外科医の腕によって、嵐の海をものともせず行う。
- 船乗りと外科医の熟練度によって嵐の中でも信頼性をもって常に行うことができる。
もちろん7番がこの中ではベストですが、船乗りと外科医がともにその域に達するのは多くの経験と鍛錬が必要です。また、常に1番か2番かの冷静な状況判断が求められます。
まだまだ未熟なカウンセラーとしては、1番でないかぎりは、やはり5番を目指したいと悪戦苦闘するのです。自分の状態を把握し、コントロールし、船の揺れがおさまるために考え付くかぎりの工夫を行います。
もちろん、嵐に合わないのが理想です。予防できるものなら、予防する。海図を読んで天候を呼んで、嵐に遭遇しないように、渦に巻き込まれないように船を操らなくてはならないのは当然です。
けれどもやっぱり避けられない嵐が来る。
それは、自然だからです。
私のささやかな船さえも自然の中にいるからです。
人の死も自然。
人の心も自然。
人と人の関係も自然。
・・・やっぱり何度も悪戦苦闘していくしかなさそうです。