県庁の星、心理療法・その基礎なるもの


県庁の星

県庁の星


うーん、おもしろかった!
まあ、文章はね、なんというか、狙ったものかわからないのですが、作者の視点と主語がころころ入れ替わる上に主語のない文章が多いので、誰のことなのかわからず混乱するということが多々ありました。


けれど、それを差し引いても、テーマが面白いし、「県庁」くんの変化ぶりがスカッとしますね。オチをわかってはいるけど、その変容の過程の書き込みだって物足りないけれど、それでもやっぱりスカッとします。


国立大学・有名私立大学卒業あるいは院卒者なんかは、けっこう読んだ方がいいんじゃないかな・・・。


「自分は実践的な考え方をしているし、現場と利用者の視点に立っている!」とどれだけ思っていても、やっぱり理論とデータを頭においてしゃべっていることが多いんですよね。


特に「経験値が20年!」とか、そのくらいいくまでは、目の前の「人」に「自分自身」で対することに自信がないのです。本当は心の中でビクビクしているんです。それで、「習ったこと」「教えられたこと」「本に書いてあること」「データから示されていること」に頼りすぎてしまうんですね。そして自分はわかっていると過信してしまうのですね。


ある意味では、過信ぐらいして振舞わないと、「○○大卒」「院卒」ラベルに見合わないってがっかりされるんじゃないかっていう不安があるのかもしれませんね。
(参照 『心理療法入門―初心者のためのガイド』)


けれど、やっぱり大切なのは、目の前の人をよーく見て、自分の耳でよーく聞いて、自分の頭でよく考えたことなんですね。当たり前なのですが、けっこう難しいんです。怖いところもあるのです。だって、正解がないのですからね。ひとりひとりが違う。正解はどこにも書いてない。本人だってわからない。専門家だってわからない。「県庁の星」君だってそうでした。


ええと・・・最新の論文ではこうでした。〜〜という技法では〜〜がよいとされていて・・・。このようなケースでは、こういうふうに接することで、局面が展開され・・・。我々の理論においては、トラウマというものが〜〜というケースでみられるときは〜〜すべきであり・・・。


でもね、やっぱり心理療法において効果的であるのは、セラピストがどれだけ知識があるかではないのは言うまでもなく、セラピストがどのようなセラピーを行うかではなく、どのようにいる(being)かなのですね。


そういうことが最近の研究では、エビデンスをふまえたうえで述べられてきているようです。ってこれまたデータやら人の研究になりますね!でもね、私自身の経験においても、臨床の最初のひとまわりをくるっと終えたところで、「あれ?やっぱり〜〜という症状には〜〜療法だから、〜〜アプローチだからいいとか、そういうわけではないよね。いったい何に左右されているのかしら?私の技術がまだまだ未熟なせいかしら?クライエントの動機付け?それとも転移・逆転移?」と悩み始めたところで、そういう知見に出会うと、ああそれだと膝を打つのです。


セラピストの「心もち」、そのときのセラピストとクライエントの関係性(治療同盟としての、あるいは人と人としての)、そしてクライエントの「変化の準備状態にどれだけセラピストが合わせた接し方をできるか」・・・


そういう心理療法を成り立たせるための、さまざまな理論やアプローチや治療モデルを越えたところにある、普遍的な基礎構造を非常にわかりやすく、エビデンスに基づきながら説いてくれているのがこの本です!!必読!!臨床に出て3年以上たった方が、きっと染み入るでしょう。心理臨床の必携本でも簡単にあげていますが(カウンセリングの基本中の基本 - Psychotherapist Tetoの日記あるいはふっくらネコてとの日記)とにかく必読だと思います。


心理療法・その基礎なるもの―混迷から抜け出すための有効要因

心理療法・その基礎なるもの―混迷から抜け出すための有効要因

  • 作者: スコット・D.ミラー,マーク・A.ハブル,バリー・L.ダンカン,Scott D. Miller,Mark A. Hubble,Barry L. Duncan,曽我昌祺,黒丸尊治,浜田恭子,内田郁,市橋香代,舟木順子
  • 出版社/メーカー: 金剛出版
  • 発売日: 2000/07/01
  • メディア: 単行本
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なんだか、『県庁の星』の話から心理療法の基礎の話になりました。


こんなふうに楽しもうと小説を読んでいても、心はなんだか・・・



職人!?あるいは・・・ヲ・・!?


でも、こんなふうに心理療法の基礎について勉強しているときって、けっこう楽しいんですよね。なんでだろう?実際の心理療法は、いろんな複雑な思いが飛び交って頭もフル回転して、疲弊するような真剣勝負もあって、ただ楽しいってわけじゃないのにね。


ひとつの道を極めようと進んで行くという過程というものが、もしかしたら楽しいものなのかな。うまくなりたいと願って、そのための手がかりあるいは取っ手のようなものが見つかったときがね☆