(短編小説ための習作 第1話 メモ)
机に向かい、パソコンを立ち上げた。
画面が使用可能な状態となって現れてくるまで、机の上にバラバラと転がっているものに目を向ける。何冊かの辞書、平成18年度の講義の日程、委嘱状、新しく買った本と蛍光ペン。私の日常とともにあるもの。そういったものになんとなく目をやっていると、メモ用のノートに、妹の字で新しく何かが書き足されているのに気づいた。
もちつき 天気晴れ
・・・わが妹ながら、どのような認知的世界に生きているのかと頭を悩ませる。
きっぱりと書かれた覚書は謎を解いてみろと迫り続ける。2つの文字は黒のボールペンによって迷いのない力強さで書かれている。さらに丸で囲まれている。何か重要なテーマがその2つの言葉の中に内包されているのだ。彼女はしかるべき相手としかるべきテーマについて語り、その内容の重要性を2つの言葉に集約し、結晶化したのだ。
しかし・・・
そんなの、メモらなくていいんじゃ・・・?
私は妹のことを心から愛している。愛しているつもりだ。しかし、机の上に残された「もちつき 天気晴れ」というメモのもたらす脱力感は殺人的な威力を持っていた。このような言葉を人のメモに残していくというのはいかがなものだろうか。うっかりメモを目にしてしまった人に対して、殺人的脱力感をもたらすのではないかという予測を立て、そのメモを始末しておくという配慮は、人として大事なものではないのか・・・。
妹のへの愛が揺らぎ始める。
私は2つの言葉に翻弄され、とりとめのない思考反芻の渦の中へ引き込まれていく。なぜ・・・なぜなんだ・・・。なぜ彼女は・・・。
<<つづく>>
次号予告:謎のメモを手に、「私」は失われた絆を取り戻すため旅に出る。そこで「私」が目にしたものとは!?驚きの急展開!!乞うご期待!!