論述問題について:合格するためではなく、プロの心理援助職としてクライエントのために臨床心理学的知識と技術を応用することを考えて書け!


*注意*以下、弱冠辛口です。受験生かつ不安になりやすい人、試験前に動揺したくない人は、読まないようにしてください。





平成18年10月14日(土)、いよいよ今年の1次試験ですね。
(財)日本臨床心理士資格認定協会のホームページ


先日、このようなご質問をいただきました。

論述の問題での書き方ですが、以下の二点について、どのように書いていったら良いのか、内容的なものも含めて、教えていただけますでしょうか?本来は、まずは、自分で書いてみたり、調べてみたりしなければならないのですが、マークシート対策に追われています。以下の二点、さわりだけでも良いので、何をポイントとしたら良いかご教授していただけたらと思います。宜しくお願いします。

 ①折衷的立場で行う心理療法を行う功罪について
 ②テストバッテリーを組んだところ、結果に違いがあった、どう解釈するか・・
 です。
①は、来談者中心療法と精神分析とかでしょうか・・
②については、どのような側面から述べていけばよいでしょうか・・・


えええと・・・まず、私の考える論述問題のポイントをいくつかのべます。


1.字数制限を厳守しろ。
 足りなくても越えても、落ちます。


2.完全に正しい解はない。「知識がないと書けない」と、言い訳するな。


3.資格試験に受かるためではなく、仕事に就いたときに、臨床心理学の知見を「目の前のクライエントのために正しく活用する」という姿勢が問われていることを理解しろ。


4.プロとして、臨床心理学的知識と技術を活用し、どのような点を重要視すれば、目の前のクライエントの利益になるかを考える力がないなら、落ちても仕方がない。論述問題に適切に答えられないならば、資格を得るべきではない。


では、以上のポイントに基づいてご質問の論述問題を検討してみます。


①折衷的立場で行う心理療法を行う功罪について
 まず、「折衷的立場」についての歴史的概観(なぜ出てきたか)や、各心理療法理論の利点と欠点については当然わかりますよね。まあ、いくつかの療法についてきちんと考えながら学んでいれば、おのずと理解されると思います。代表的な心理療法理論をふたつぐらいしか知らない・・・のは論外ですが、それでもきちんと学んでいれば、書ける問題です。
 そのそれぞれの心理療法の利点と欠点を考えれば、折衷的立場の利点と欠点も見えてくると思いますし、それを目の前のクライエントを援助するために応用するとき、どの心理療法にも共通して言える功罪もありますよね。そのあたりを考えるとよいでしょう。
 「折衷主義」「統合的心理療法」など聞いたこともない・・・場合は・・・もう1年しっかりと勉強するか、合格してしまった場合は、もっといろいろと日常の臨床の中で「このやり方でいいんだろうか」「もっとこのクライエントのためにいい方法があるのではないだろうか」と真剣に悩みながら、仕事をしてください。その過程で、知らないでいられるはずがナイ!と私は思います。 


 ところで、「折衷」と「統合」は同じものとして使われる場合もあるようですね。でも、原則的には別のものですよね。たぶん、「折衷」はそれぞれの心理療法を別のものとして、目の前のクライエントに最適なものを選び、使っていくというやり方なのに対し、「統合」は純粋に“セラピスト−クライエント関係に丁寧に目をむけ援助する方法”をそれぞれの心理療法理論から抽出し統合するという意味合いがあるようです。


 けれど、すべての心理療法は折衷であり総合なのではないかと私は考えています。だって、「私」が心理療法を行う限り、たとえクライエント中心療法であっても、そこには「私」の理論とやり方が折衷され、統合されているわけですからね。「私」という道具を使いこなすためには、そして10人いれば10通りのクライエントを援助するためには、より多くの理論と技術を知っているに越したことはないわけです。そして、悩み、取捨選択し、セラピストの人生と技術の上での成長とともに、「私」の心理療法が統合されていくのだと思います。


【参考となりそうな文献】「折衷」があまりないですね。私は何を読んだんだったかな…。

統合的心理療法の考え方―心理療法の基礎となるもの

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New Approaches to Integration in Psychotherapy

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心理療法の統合を求めて―精神分析・行動療法・家族療法

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セラピストとクライエント―フロイト、ロジャーズ、ギル、コフートの統合

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②テストバッテリーを組んだところ、結果に違いがあった、どう解釈するか・・

 これは・・・仕事をしていれば、日常茶飯事なことでもあるので、この問題についてきちんとかけないのはマズイです。資格を持って援助するならば、これを書けないとクライエントに失礼です。
 そもそも、なぜテストバッテリーを組むのか?
 クライエントのニーズと利益は何なのか?
 査定の目的は何なのか?
 「結果」とは、そもそも何なのか?心理査定の所見のヨリドコロは統計データですよね。
 目の前のクライエントのために、テストバッテリーの結果を活用するわけですが、それは何をするということなのか?

 
 「査定のために査定する」ことのないようにしなくてはいけませんし、目の前の人は「この世でただひとりの人」なわけですから、その点に関して「査定の結果が矛盾する」とはどういう意味を持つのか知っていなくてはなりません。 
 

 また、別の問題として、査定者の査定面接のあり方、信頼関係の形成の仕方、査定そのもののやり方、教示の仕方、クライエントの状態や体調や気分、精神症状などなどは、常に一定ではありません
 心理査定というのは「クライエントを検査室に入れ、指示通りにテストをやって、プロフィールの数値をテキスト(解釈本)によって解釈する」ものではないということを、どれだけ本質的に理解しているかが、鍵ではないでしょうか。


ちょっとポイントが伝わったでしょうか?
他のみなさんのご意見や受験生のご意見などもぜひ聞いてみたいところです。


2005年の論述問題については私も以前書いています。
臨床心理士試験 - Psychotherapist Tetoの日記あるいはふっくらネコてとの日記


繰り返し述べますが、「合格できるような知識をたくさんもっているか、“正解”を書けるかではなく、プロの心理援助専門職として資格を得るにふさわしい、クライエントに対する態度を持っているかを問う」のが論述問題ではないかと思います。